透析シャントトラブル
透析シャントトラブルは、透析患者さんの生命線であるバスキュラーアクセスに起こる代表的な合併症であり、主なトラブルは、シャント血管の狭窄、閉塞、血管瘤の形成、感染、スチール症候群、静脈高血圧症などがあります。
主なトラブル
シャント狭窄(血管が狭くなる)・閉塞(血管が詰まる)

シャント狭窄の原因は、繰り返しの穿刺による血管壁の損傷や、血管内膜の肥厚(内膜過形成)、吻合部の血流によるストレスなどで、特に静脈側に多く見られます。
閉塞は狭窄が進行して血栓が形成されることで起こり、低血圧や脱水、凝固能亢進なども誘因となります。症状としては、狭窄ではシャント音が弱くなったり高音化したり、スリルが減弱するほか、透析時に静脈圧が上昇し脱血不良を起こします。閉塞ではスリルや雑音が消失し、透析が不可能となり、シャント肢の腫脹や疼痛を伴います。
治療の中心はVAIVT(Vascular Access Intervention Therapy)注1であり、その基本技術がPTA(経皮的血管形成術)注2です。局所麻酔下でシャント血管にカテーテルを挿入し、狭窄部にバルーンで膨らませ、血管を内側から拡張します。閉塞例では血栓除去術や薬剤による血栓溶解を併用を行うことがあります。VAIVTは低侵襲で即効性があり、透析を中断せずに続けられる点が大きな利点です。定期的なエコー評価やスリル・雑音の確認による早期発見と、VAIVTによる迅速な治療がシャント長期維持の鍵となります。
注1:VAIVT(Vascular Access Intervention Therapy): 透析用バスキュラーアクセス全般に対するインターベンション治療の総称。PTAに加え、血栓吸引・破砕、薬剤溶解、ステント、再開通、超音波ガイドでのアプローチなど「VA機能不全に対する内科的・画像下治療」を包括します。学会ガイドラインでもVAIVTは“基本技術の枠組み”として位置づけられます。現場では、かつてPTAと呼ばれていた内容が「VAIVT」という包括用語で表現されることが増えています。
注2:PTA(Percutaneous Transluminal Angioplasty): 狭窄・閉塞部位にカテーテルで到達し、バルーンを拡張して血管内腔を広げる「血管形成術」そのものを指す手技名。治療手段としてはバルーン拡張が中心で、必要に応じてステント留置を併用します。
血管瘤

血管瘤は、繰り返しの穿刺や感染、血管壁の脆弱化によって血管が膨らむ状態です。拍動性腫瘤や皮膚の菲薄化が見られ、破裂すると大出血につながります。小さい場合は経過観察ですが、増大や皮膚の菲薄化、感染を伴う場合は外科的修復や人工血管置換などが必要です。
感染
感染は、穿刺部の不衛生や人工血管・カテーテルの異物感染が原因です。症状は発赤、腫脹、疼痛、発熱、膿性排液で、重症化すると敗血症に進展します。治療は抗菌薬投与や局所管理、人工血管感染では除去、カテーテル感染では抜去と新規留置が原則となります。
スチール症候群
スチール症候群は、シャントに血流が奪われ末梢への血流が不足する状態です。症状は手指の冷感、しびれ、疼痛、皮膚潰瘍で、重症例では壊死に至ります。治療は血流再配分術(DRIL法、banding、動脈流入部変更など)で末梢循環を改善させる治療を行います。
静脈高血圧
静脈高血圧症は、返血側の静脈狭窄や心不全、過剰血流が原因で起こります。症状はシャント肢の腫脹、皮膚色の変化、静脈怒張、疼痛です。治療は狭窄部のPTAやステント留置、血流制限術が行われ、心不全合併例では循環管理も必要です。